Pallet 第2話/夕暮れの影法師

Pallet第2話。今回は和弥の話です!
和弥の過去、悩み、葛藤などと、暗い話になってしまいました・・・。ごめんなさい。
ここから先は本編になります。


俺には母親の記憶があまり無い。9歳の時に、母親は事故で亡くなった。
雨上がりの、夕暮れ時の事故だった。
買い物を終え、自転車で帰宅していた母親と雨でスリップした軽自動車が衝突。
救急搬送されたが、母親の意識が戻ること無く、事故から三日後に息を引き取った。

不安と戸惑い、悲しみと後悔。
そんな負の感情で溢れる中、俺と父親は必死に模索しながら生活した。
父親は、俺を生かすため。
俺は、父親の負担を最小限にするため。
お互いがお互いを第一に考え、生活し続けた。


高校一年のある放課後、外部活をする生徒や帰宅をする生徒の足を惑わせるように、夕立が降った。
鞄から折り畳み傘を取り出し、帰宅に急ぐ生徒。
傘も無く、全力疾走で自転車を漕ぐ生徒。
雨が弱まるまで校舎内で待つ生徒。
部活を一時中断して、雨宿りする生徒。俺もその一人だ。

そんな中、その様子を美術室で描いている生徒がいた。
同学年で美術部員の橘 愛里。
忙しなく鉛筆を走らせ、一瞬の情景をスケッチブックに収めていく。
目が離せなかった。
雨音が弱まっていくのにも気付かず、彼女の事を見ていた。

あの日の事は今でも鮮明に覚えている。
ただ、一つ気になるのは、愛里がどんな絵を描いていたかだ。

月日が過ぎ、高校三年の夏、愛里の家で生活し始めた頃。
ダイビングショップから帰宅しようとしていた俺の足を夕立が阻んだ。
「俺、雨男かな・・・」
そんな事を言いながらも、頭の片隅で母親の事を思い出していた。
幼い俺は雨上がりの空が好きだったらしく、雨が止むと外に出て、母親と一緒に空を見上げていたらしい。
あの日の事故が無ければ、今でも雨上がりの空が好きだったかも知れない。

ダイビングショップで傘を借り、俯きながら歩みを進めた。
雨の音が、俺の気持ちを沈ませる。

「お帰り、和弥」
聞き慣れた声に、俺はゆっくりと顔を上げた。
目の前に立っていたのは千夏だった。
「傘、持って行かなかったと思って、迎えに行こうと・・・」
「良かった・・・」
ふとこぼれた言葉に釣られて、俺は涙を流していた。
「えっ、ちょっと、どうしたの!?何所か怪我した?気分悪い?」
千夏は慌てて近付き、俺の体を心配する。
着ていた上着の袖で俺の涙を拭う千夏をそっと抱き寄せた。
「・・・ごめん、母親の事、考えてて」

「苦しかったね。もう、大丈夫。私が・・・、皆がいるよ」
千夏の細い腕が俺の頭を抱え、泣く子をあやすように髪を撫でる。
不思議と涙が止まり、荒れていた心が落ち着きを取り戻し始めた。

通り雨だったのか、数分で雨は止んだ。
「雨も止んだみたいだし、帰ろう」
差し出された千夏の手を取り、再び歩みを進めた。


愛里の家に着いたが、愛里の姿は無かった。
テーブルの上にスケッチブックが数冊、無造作に置かれてある。
「まったく、あの子は・・・」
腰に手を添えたまま、千夏は裏庭の窓を開けた。
そこには、スケッチブックと水彩絵の具を持ち、制作真っ最中の愛里がいた。
「お帰りー。ちょっと待っててね、すぐに終わるからー」
家や電線など、障害物がほとんど無い見晴らしの良い裏庭は、愛里のお気に入りスポットでもある。

赤紫色の夕立後の夕暮れ空。
千夏と俺も裏庭に出て、愛里の後ろで作品の完成を待っていた。
黙々と描き続ける愛里の姿に俺は食い入るように見ていた。
まるで、高校一年の時のように・・・。
そして、自然と空を見上げている俺がいた。
久しぶりに雨上がりの空を見た気がする。
何の躊躇の無く、何の感情も無く、ただ無意識に見上げていた。

大まかに描き終え、満足したのか、愛里はくるりと俺達の方を向いた。
「お腹空いたね。晩ご飯にしようか」

愛里はスケッチブックを俺に預け、手際良く水彩道具を片付け始めた。
千夏はキッチンに向かい、晩御飯の支度を始めた。

「愛里、見たい絵があるんだけど・・・」
「ん?」
ずっと気になっていた放課後の絵。
俺の記憶違いでなければ、描いていたのは愛里だったはずだ。

俺の記憶の情景を話すと、愛里はテーブルの上に置いてあった一冊のスケッチブックを手に取った。
パラパラと捲り、笑顔でそのスケッチブックを見せてくれた。
そこに描かれていたのは、制服姿や部活動のユニフォーム姿の生徒が行き交う様子を描いた水彩画だった。
ただ、あの時は曇天だったはずだが、
愛里の絵は、お天気雨のように明るい青と白で所々をぼかし、雨など降っていないようにも見える。

「私ね、あの時の事、今でもしっかり覚えてるの。雨が降っていたけど、みんな良い表情で生き生きしてた。
だから、曇り空が似合わなくて、青い空の下で、白で少し霞ませて、空想感を出したら素敵かな、って思ったの」

モノの捉え方一つでここまで変わるのか・・・。
俺は、愛里のように感性豊かでは無い。
千夏のように、明るく、優しく、人を心から包む事は出来ない。
歩のように、器用に、場を見て行動出来ない。
悲観的かもしれないが、俺は、俺の良さをあまり考えないで生きて来た。
母親が亡くなってから、生きる事だけに必死で、悲しみや苦しみを押し殺して来た。

「和弥はさ、深く考え過ぎだと思うよ」
キッチンで晩ご飯の支度をしている千夏が、俺の心を読んだかのように、ふと口を開いた。
「もっと言って良いよ。もっと頼って良いよ。もっと、弱い所を見せてよ。全て受け止めるから」
「そうだよ!私達に言い難いなら、歩だっているんだよ。一人で抱えていたも辛いだけだよ」
千夏と愛里の言葉が一つ一つが、俺の心に流れ込む。

図星を指され過ぎて、正直驚くしかなかった。
「そうだよな・・・。あの時みたく、伝えてみないと分からないよな」

ふと、千夏に告白した時の事が頭に浮かんだ。
あの時だってそうだ。
あの時、告白していなかったら、俺はここに居ない。

「ありがとう、二人とも。何か、ごめん」
俺は愛里と千夏に頭を下げた。
ここで、切り替えないと、また引きずる気がした。
頭を上げたら、自分に、今に目を向けよう。
ゆっくりと頭を上げると、愛里が笑顔で両手をポンと合わせた。
「よし、これで終わり!!」
千夏も完成した料理をカウンターに置き始めた。

「ただいまー」
「おかえり、歩ー」
「おかえり、ちょうど料理出来たよ」

俺は、ここに居れて良かった。
俺には無いモノを持った人が、側に居てくれるから。
俺よりも、愛里や千夏、歩の方が俺の事を知っているかもしれない・・・。

雨上がりの夕空が俺の心をようやく明るくした。



最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
ここで一言言わせて下さい。
『和弥は雨男です!!』
過去の作品【愛の色】を読んで頂くと分かります。

和弥の当初の設定は、愛里並みに明るい、ムードメーカーの設定でしたが、
それだと、千夏と合わないと思い、180度視点を変えました。
歩をもっと出してあげたかったのですが、次回にします。
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