朱き桜 第1話 朱き桜

<登場人物>
紫祇(シギ)
 仁(ジン)・・・桜宮(オウキュウ)で高位の地位のある紫祇家の主。
 日向(ヒナタ)・・・仁の妻。
 麗(レイ)・・・紫祇家の長女。

 蒼(アオ)・・・仁の守人(モリビト=用心棒)。
 月葉(ツキハ)・・・日向の守人。
 朱桜(シュオウ)・・・麗の守人候補者。



一年中、桜が咲き誇ることで有名な桜の街【桜宮】
なかでも、我が紫祇家の桜木は特別だ。
枯れ朽ちること無く、何百年も咲き続けてきた。
そして、朱き桜と呼ばれ、皆から親しまれている。


「買い物に付き合ってくれてありがとう、蒼」
「いいえ、お気になさらず」

屋敷へ帰ろうと歩みを進めていると出店の女性から呼び止められた。
「麗様、桜木の御礼に蜜柑でも如何ですか?今年は甘みが強く、身もしっかりしてるよ」
そう言いながら、女性は蜜柑を箱に詰め渡してくれた。
「まぁ、こんなにも立派な蜜柑を。ありがとうございます、奥様」
大好物の蜜柑が箱にぎっしりと詰められてある。
見ているだけでも幸せ。


大荷物を持ち、屋敷に戻ると門の前で御父様が出迎えてくれた。
「ただいま、御父様」
御父様は私の荷物を見て、優しく微笑んだ。
「おかえり、麗。また沢山頂いたね」
私も蒼も両手にいっぱいの荷物を抱えていた。
「蒼が一緒に来てくれて助かったわ」


その日の夜。
日課である刀の稽古をしていると、御父様に呼ばれた。
縁側に座る御父様の傍には蒼ではなく、見知らぬ男がいた。
「御父様、その方は?」
体つきがしっかりとしているから、武人の方だろうか・・・。

「朱桜だ。日向や月葉と共に屋敷を離れていた」
えっ・・・!?
「では、御母様と月葉も屋敷に!?」
「ああ。日向はすでに部屋で休んでいる」

稽古の手を止め、私も縁側に座った。

「実は、朱桜をお前の守人にしたいと日向から話があった」
朱桜を私の守人に・・・。

「私は、構いませんが・・・」

ふと、御父様の顔を見ると、御父様は驚いた顔をしていた。
でも、その顔はすぐにいつもの優しい顔に戻った。
「驚いた。断られると覚悟していたのだが・・・」

私はすぐさま朱桜の方を向いた。
「朱桜、私でも良い?」
「お前が決めたことだ。断る理由もない」

朱桜の返答に私は安心した。
守人になったら、主の為に忠誠をし続けなければならない。
主も守人も、今後の運命が変わり兼ねない為、安易に返答は出来ない。
これで良かったのか、私も不安な所はある。

それでも、私にも近い将来、守人が就くことになっていた為、今回の話は寧ろ良かったのかもしれない。
初対面の人だと不安だし・・・。
朱桜ならば、きっと大丈夫なはずだ。

「あっ、そういえば、朱桜」
「ん、何だ?」
私は、満面の笑みでしっかりと朱桜の方に体を向けた。
「おかえりなさい、朱桜!」
「ああ、ただいま」

少しずつでも良い。
ゆっくりとお互いを知り、分かち合っていこう。


翌朝。
「隣町の翠都(スイト)へ?」
御父様からの遣いで、隣町の翠都にいる研ぎ師の元を訪ねることとなった。
しかし、私は生まれて此の方、桜宮以外の街を訪れたことがない。

「行っても良いのですか、御父様?」
「ああ、朱桜と一緒なら大丈夫だ。頼んだぞ、朱桜」
「承知」
朱桜は片膝を床に着き、頭を下げた。

私は不安を抱えたまま、朱桜と共に屋敷を出た。


「麗、了承してくれたのね。良かったわ」
「ああ。それよりも、ゆっくりと休めたか、日向」
「ええ、お陰様で。でも、麗には悪いことをしたわ。少しでも、会ってあげれば良かった・・・」


翠都に着いた私達は、研ぎ師から刀を受け取り、翠都の街を歩いていた。
桜宮には無い物が多く、いつの間にか私の不安も消え、翠都の街を満喫していた。

「そろそろ屋敷へ向かわないと、日が暮れるぞ」
朱桜の言葉を聞き、ハッと我に返り、此処が隣町の翠都であることを思い出した。
「ごめんなさい、翠都に来ていたのよね。忘れていたわ」


私達は、翠都の関門を通過し、桜宮へと向かう。
静かな草原を歩いていると、急に朱桜が空を見上げた。
「朱桜、どうしたの?」
「風が変わった。直に雨が降る」
桜宮の関門までは、草原を越え、橋を渡った先にある。
雨が降る前に桜宮に着けば良いのだけれど・・・。

「麗、少し急ぐが、構わないか?」
「構わない。早く屋敷に戻らないと皆が心配する」


桜宮の関門まで後は橋を渡るだけ。
しかし、空は黒い雲に覆われ、冷たい風が吹き荒れ、今にも雨が降り出しそうだ。


桜宮の関門を抜け、屋敷へ向かう最中、冷たい雨が顔に当たった。

朱桜が着ていた上着を脱ぎ、無言で私の頭の上に掛けた。
「ならぬ、これではお前が・・・」
「構わない、着ていろ」


幸い、雨脚が強まる前に屋敷に着いた。

「麗様、朱桜。良かった、ご無事で」
蒼が手拭いを持ち、出迎えてくれた。
「ただいま。ごめんなさい、遅くなって」


私は着替えた後、御母様の部屋を訪ねた。
「御母様、ただいま戻りました」
御母様の部屋には月葉も来ていた。
「おかえりなさい、麗。大きくなったわね」
「おかえりなさい、麗様。日向様に似てお綺麗になって♪」

「御母様も月葉もおかえりなさい」

やっと、御母様達が屋敷に帰ってきた。
凄く嬉しい。
また皆で、この屋敷で・・・。


翌朝。
今日からの稽古は朱桜と共に行うことになった。
木刀の交わる音が屋敷に響き渡る。
力も体格差もある為、かなり体力を消耗し、息が上がる。
それに対し、朱桜は涼しい顔をしている。
「もう降参か?」
「まだ・・・。まだだ」
負けず嫌いで意地になっているのは分かっている。
勝てる訳など無いのに、私は朱桜に立ち向かう。

その時だった。
急に風が音を立てて吹いた。

風の音を聞いたのとほぼ同時に、朱桜から冷たい殺気を感じ、体が竦んだ。

「今日はここまでだ」
朱桜はそう言い、構えていた木刀を下に向けた。
私もゆっくりと深呼吸をしながら、木刀を下した。
しかし、私の体はまだ震えていた。

「風が出てきたから、屋敷に入れ。体が冷える」
朱桜はそう言い、私が持っていた木刀を取り、私の頭に軽く手を置いた。

「・・・ごめんなさい」
「何がだ?」
「分からない。でも、凄く、怖くて・・・」

確かに朱桜は蒼や月葉と比べたら怖い部分もある。
けど、今のような殺気は初めて感じた。

「悪かった。大丈夫だから、忘れろ」
朱桜のその言葉に私は小さく頷いた。

「麗様、風が出てきましたので、屋敷の中へ御入り下さい」
蒼の言葉にも小さく頷き、私は自分の部屋へと向かった。


「蒼、悪い・・・」
「俺は構わない。だが、麗様が」
「ああ、流石に今のは度が過ぎた。嫌なことを思い出させたかもな」


部屋へ戻った私は、着替えをし、気持ちを新たに部屋を出た。


「御父様、御願いが・・・」
御父様の部屋の中央で頭を下げたまま、私は話し続けた。
「小太刀での稽古を許可して頂きたく参りました」

護身用として持ち歩き、緊急時の使用許可は得ているが、今回は違う。
「稽古で、朱桜と刀を交えたく・・・」
尚も顔を下げたまま、御父様からの返答を待つ。

「木刀とは違う。誤れば傷が付く。それは麗も、朱桜もだ」
「はい。心得ています。それでも・・・」

御父様が言う言葉の意味は、私が一番理解している。

「分かった。許可する」
「ありがとうございます」
私が深く頭を下げると、御父様は私の元に膝を着いた。
「但し、お互い怪我のないように。日向に怒られたくはないだろ?」
私の耳元で囁く御父様の横顔はどこか嬉しそうに見えた。


夜、月明かりが庭を照らす中、私は小太刀を振る。

「朱桜、そこにいるわね」
桜木の上にいる朱桜を私は見つめた。
「仁が簡単に許可を出すとは思わなかった」
朱桜は小さく溜息をつき、地に足を着いた。

「御父様は、本当に私に刀を持たせたくないみたいね。許可してくれたのは護身用の脇差と、この小太刀だけよ」
「今はそれだけで充分だ」
「でも、私はもっと強くなりたいの。その為にも、協力してね♪」

朱桜はまた溜息をつき、腕組みをした。
「相変わらず、我が儘な姫君だ」

小太刀を鞘に戻し、私は朱桜の前に立った。
「ねぇ朱桜、私の守人になって。ずっと私の傍に居て」

朱桜は片膝を地に着く。
「仰せのままに、我が姫君」

桜木の下で誓いを立て、私達の歯車はゆっくりと回り始めた。



2・3年以上放置・・・寝かせた小説がやっと完成しましたー!(いやー長い戦いだった・・・)
人物設定など、しっかり決まっていない今回、
次回作以降から、少しずつ決める予定です。
まだ作成途中ですが、次回は朱桜の話の予定です。(いつ、完成するかな・・・?)
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