朱き桜 第2話 朱き桜、名も無き風

お待たせ致しました!前作『朱き桜』の過去編です。
簡単に【人物紹介】
風鳴・・・賊狩りの黒鷹の一員。
瀧・・・賊狩りの黒鷹の一員。
彰・・・賊狩りの黒鷹の長。
※紫祇家の3人と蒼は前作『朱き桜』を参照して下さい。
(朱き桜より約10年程前の話?と設定しています)



生まれて間もない俺を、両親は山に置き去りにした。
赤子の俺を拾い、育ててくれたのは、賊狩りの黒鷹の長である彰だった。
俺が10歳の時、彰は全てを話してくれた。
俺は、何も疑うことなく、話の全てを聞き入れた。


5年後の満月の時、山で賊狩りの任務中、敵の返り討ちに遭い、俺と瀧は負傷した。

「奴ら相当傷を負っている、まだ遠くには行ってないはずだ!」
敵の声が静寂な闇夜に響く。

傷だらけの体を無理矢理動かし距離をとるが、敵の言う通り、あまり遠くまで逃げれそうにない。
それでも、身を隠し、俺は瀧に傷の手当てをする。

「お互い、随分やられたね」
苦笑する瀧に、俺もつられて苦笑した。
「ああ、そうだな」


傷の手当てを終えた俺達は、山を下りる為、歩き始めた。

「山を下りた所にある桜宮で体制を整えよう」
「それまで私、保つ、かな」
瀧の言葉に俺は何も言えなかった。
正直、山を下りるまでの体力は瀧には残ってないと思ったからだ。


山の麓にある桜宮の街が、少しずつ見え始めてきた。
「瀧、もう少しだ。耐えてくれ」
瀧の体を支えながら、桜宮を目指し歩みを進めた。

俺達は無事に桜宮に辿り着いた。
僅かな力を振り絞りながら歩いていた時、後ろに人の気配を感じた。

「怪我、してるの?」

立っていたのは、幼い女の子だった。

「待ってて、今御父様を呼んでくるから」
来た道を戻ろうとするその女の子に、俺は掠れながらも声を出した。
「呼ぶな、迷惑だ」
後ろを向いたまま、今にも泣き出しそうな声で女の子は言い返した。
「死んじゃ、嫌だ」
そう言い、女の子は走っていった。


あれから少し歩いたが、体力が限界に達したらしく、瀧と共に地面に倒れ込んだ。
痛みも何も感じない。
ああ、死ぬのか。

薄れゆく意識の中、複数の足音が聞こえてきた。

「御父様達を呼んできたよ。もう大丈夫だよ」
俺の手を握り、泣きながら女の子は声を掛けた。

その言葉を聞いた後、俺は意識を手放した。


「目が覚めたみたいね。良かったわ」
一人の女の人が俺の傷を手当てしていた。
その隣には一人の男の人の姿もあった。
「此処まで、よく頑張ったな、風鳴」
「俺の、名を、何で」
俺の名を知っているのは黒鷹の人間だけなはず。
なら、この人は・・・。

「私は彰の旧友なんだ。彼から黒鷹の事はよく聞いていた」
「貴方が、紫祇、仁?」
「ああ、そうだよ」

俺も彰から聞いたことがあった。
そして、何かあったら桜宮の紫祇家を頼るよう、彰から言われていた。


「風鳴、今の君に言うのは、正直心苦しいものがあるけど、話しても良いかい?」
「はい・・・」

仁は、横になっている俺に深々と頭を下げた。
「すまない、瀧も黒鷹も救ってやれなかった」

俺達を紫祇家に運ぶ時、既に瀧は亡くなっていた。
それよりも前に黒鷹の屋敷が敵の奇襲に遭い、全滅した。
俺は居場所も、仲間も、何もかも、失った。

「そう、ですか。もう、帰る場所も、仲間も・・・、全部・・・」
俺だけが生きたことが寧ろ悔しく、俺はただただ、涙を流した。


数日後。
傷もほぼ癒えた俺は、瀧が土葬されている庭の桜木の前で立ち尽くしていた。
「悪い、遅くなったな。俺も今逝くから」
持っていた刀を鞘から抜き、刃を自分に向けた。
瀧も黒鷹も無くなった今、この世に未練はない。

覚悟を決め、目を閉じた時、後ろから誰かが駆け寄ってきた。
「死んじゃ嫌だ!」
その声に、言葉に、覚えがあった。
目を開け、振り返ると、幼い女の子があの日と同じように立っていた。

「死んじゃ嫌だ。もう、誰も死んじゃ駄目!」

あの時には既に、黒鷹は奇襲い遭い、全滅していた。
こんな幼い女の子が、その言葉の意味を知っていたのだろうか。
それとも、傷を負った俺達を助けたかっただけなのだろうか。
まあ、どうだって良い話だ。


ゆっくりと近付いてくる女の子に、俺は刀を向けた。
「来るな。もう、助けてくれなくて良い」
冷たい風と共に、冷たい殺気で威嚇する。
泣いて逃げ出せよ。
もう、俺に構うな。
死なせてくれ・・・。

「怖く、ないよ。怖くなんて、ない」
そう言いながら、まだ近付いてくる女の子を、俺はさらに威嚇し、女の子の目の前で刃を止めた。

「何で、怖れない。何で・・・」
何で、俺はこの子に刃を向けているのだろう。
この子を殺したいんじゃない。
殺したいのは、俺だ・・・。

俺は俯き、目を閉じ、刀を下げた。
それを見た女の子が静かに近付き、俺を力強く抱きしめた。
「良かった。良かった・・・」

俺はゆっくりと目を開け、抱きしめる女の子を見下ろし、優しく抱きしめ返した。
緊張の糸が解けたかのように、女の子は体を俺に預け、眠りに就いた。


刀を鞘に戻し、女の子を縁側に運んだ。

「えっ・・・」
女の子の左肩に包帯が巻かれてあるのが見えた。
まだ新しい傷なのだろうか、包帯に血が滲んでいた。

「風鳴、来なさい」
仁に呼ばれ、俺は何も言わずに従った。
仁の隣にいた俺と同じ年くらいの男が、女の子を抱き上げ、俺達とは逆の方へ歩いて行った。


広い部屋に仁と向き合い、座った。
「麗が、あの子が迷惑をかけたね。でも、許してやってくれ」
「俺こそ、あの子に刀を・・・」

俺は、全く関係のない子に刀を向けた罪悪感に体が押し潰れそうだった。

「風鳴、君さえ良ければ、此処に居続けてはくれないか?」
「でも、俺は・・・」
俺が生きていることが敵に知られれば、もっと迷惑が・・・。
それこそ、全く関係のない人達を巻き込んでしまう。

「彰や瀧、そして麗の為にも、生きてくれ」

仁の言葉が罪悪感に包まれた心を軽くしてくれた気がした。

「仁様。麗様の傷の手当てが終わりました。今は日向様が御側に付いて下さっています」
「ありがとう、蒼」
報告を終えた蒼は、そのまま戸の近くに座った。


その後、仁は麗の左肩の傷について話してくれた。

俺と瀧を屋敷に運ぶ際、麗が瀧に触れようとした。
その時、俺は無意識のうちに瀧を守ろうと、麗に小太刀を振り、肩に傷を負わせてしまった。
幸い、傷はそれ程深くはないが、傷を負わせてしまった事に変わりはない。


「仁様。俺に再び生きる機会をくれるなら、俺はこの命、此処の為に使いたい」
仁は静かに頷いた。
「良いだろう。なら・・・」

廊下をパタパタと走ってくる音がした。
「御父様!」
麗が勢い良く部屋に駆け込んできた。
「麗、丁度良い時に来たね。彼に名前をあげてくれ」

麗は俺の隣に座り、左腕にしがみついた。
「麗が名前をあげたら、この人死なない?」
「ああ、死なないよ」

麗はニッコリと笑い、左腕にあった手を左手へと握り替えた。
麗は周囲をキョロキョロと見渡す。
「御父様、朱い桜って何て読むの?」
庭に咲いている朱き桜木を指差した。
「朱桜、だよ」
「シュオウ?・・・うん、シュオウ!」
嬉しそうに両手で俺の手を左右に揺らしながら、何度も朱桜と口にした。

「これで風鳴は死んだ。今日から君の名は朱桜だ。良いかな?」
「はい」
仁から「風鳴は死んだ」と言われた時は、悲しかった。
けど、新たな名を貰い、此処で生きる覚悟が出来た。

「シュオウ!」
「はい」
「シュオウ!!シュオウ!!」
「はい。麗様」


瀧、彰さん、皆、ごめんなさい。
もう少しだけ、遅くなります。
まだ、此処に、居させて下さい。
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